
皮膚常在菌スキンケア:ただ塗るだけでいいの?
近頃、様々なブランドから発売されもはや定番商品となりつつある美肌菌スキンケア。
私もランコムのジェニフィックシリーズが大好きでシートマスクを良く使うのですが、美肌菌スキンケアとはただ「塗って増やす」だけで良いのでしょうか?
そんな疑問を最新の皮膚常在菌研究と照らし合わせてみると、肌質によって皮膚常在菌たちのおかれる環境は大きくことなり、ただ塗るだけでは太刀打ちできない事実が見えてきました。
この記事では化粧品企業の最新研究データをもとに、あなたの肌質にあった皮膚常在菌ケアをご紹介していきます。
- 皮膚常在菌スキンケア:ただ塗るだけでいいの?
- 乾燥肌で起きていること:菌バランスの崩壊
- 脂性肌で起きていること:常在菌の爆発的増加
- 皮膚常在菌を味方につけるスキンケア
- あなたの肌は「砂漠」か「ジャングル」か?
そもそも、皮膚常在菌はどう働く?
まずは基礎知識のおさらいからだよ!
私たちの肌には目に見えない微生物(皮膚常在菌)が数百億個も住んでいます。
主な菌は、
・肌に良い作用をもたらす善玉菌の表皮ブドウ球菌
・良い作用をもたらすが増えすぎると悪影響となる日和見菌のアクネ菌
・肌荒れの原因となる悪玉菌の黄色ブドウ球菌
これら3つ。

他にもマラセチア菌と呼ばれる真菌(カビ菌)をはじめ、多くの菌が存在しています。
ここで重要なのが、善玉菌の表皮ブドウ球菌。
皮脂を分解してグリセリンなど天然の保湿成分を生み出し、悪玉菌が増えすぎないように弱酸性環境を保っています。
資生堂の研究では「表皮ブドウ球菌が多く存在する肌は、角層水分量が多く赤みが少ない」と報告されるなど、肌にとって非常に重要な味方であることがわかっています。
代表的な肌悩みの乾燥と顔の脂っぽさという正反対な肌悩みを皮膚常在菌の観点から見てみると、全く異なる状況であることがわかりました。
乾燥肌で起きていること:菌バランスの崩壊
日本メナード化粧品とファスマックの共同研究(2023年)によると、乾燥肌にはある特徴的な傾向があることがわかりました。
乾燥肌はアクネ菌が多く、pHが高い!
*trans-epidaemal water loss…TEWL(経皮水分蒸散量)肌から蒸発する水分量の指標。TEWLが高い=バリア機能が乱れている肌荒れ状態と考えられる。

肌が潤いを保ちにくい傾向にある乾燥肌は、水分が蒸発する量が多ければ多いほどアクネ菌の割合が多く、弱酸性環境を保てていないことがわかりました。
肌のpHは、約4.5~6.0の弱酸性が理想とされているよ!善玉菌の表皮ブドウ球菌も弱酸性の肌が大好き!
こぼれ話:セラミドを合成する酵素も、弱酸性環境下で最も活発になるとされています。
弱酸性環境を維持し、常在菌バランスを整える
この研究では更に、以下のことも判明しました。
・アクネ菌が多くなると、皮膚常在菌の多様性指数が低下する
・表皮ブドウ球菌が多くなると、多様性指数が向上する
トラブルのない美肌のカギは既知の通り表皮ブドウ球菌が握っていることがわかります。
乾燥しにくい健やかな肌を維持するには、表皮ブドウ球菌を増やし、弱酸性環境を維持することが重要なのです。
脂性肌で起きていること:常在菌の爆発的増加
続いて、皮脂が多い脂性肌ではどのようなことが起きているのでしょうか?
コーセーの研究(2024年)では、脂性肌についての興味深い事実が明らかになりました。
肌が脂っぽい人は菌の数が100倍以上多い
20~80歳の女性269名を対象に常在菌の菌数を調べたところ、菌数が多い人と少ない人でなんと100倍以上の差があることがわかりました。

常在菌が多すぎると何が起こる?
また、この研究では皮膚常在菌の総数が非常に多い肌には、そうでない肌と比べて以下の特徴があることがわかりました。
- 皮脂量が多い
- 毛穴の数が多い
- 肌の粗さのスコアが大きい(肌の凸凹が目立つ)
- 肌の赤み(炎症)が強い
なぜこのようなことが起こるのか、全て皮脂と常在菌の関係から推察することができます。
①皮脂量が多い⇒皮脂を栄養源とし常在菌が増えやすい
②凸凹が目立ち、毛穴が多い⇒常在菌が住みやすい
③肌の赤み(炎症が強い)⇒常在菌やその代謝物によって炎症が引き起こされやすい
常在菌の代謝物である遊離脂肪酸、その中でも不飽和脂肪酸は炎症を引き起こし、バリア機能の低下を招くこともわかっています。
乾燥肌は多様性が乱れて善玉菌が少なかったけど、脂性肌は菌の数自体が多すぎるみたい
皮脂をコントロールし、菌を適度に抑える
この研究で非常に興味深いのが、肌の水分量やpHよりも、皮脂量・毛穴の多さ・肌の粗さの方が菌数に強く関係していたという点。
これらは、脂性肌では常在菌が増えやすい好条件が揃っているという見方をすることができます。
脂性肌は皮脂を上手にコントロールし、爆発的に増えた菌の数を抑えることが健やかで美しい肌を保つために必要だと言えるでしょう。
乾燥肌の人が『砂漠』ならば、脂性肌の人は『ジャングル』といったところ。どちらの肌も中間の『オアシス』を目指したいですね。
皮膚常在菌を味方につけるスキンケア
肌荒れ時に皮膚常在菌がどのような状況になっているのかは、肌質によって異なることがわかりました。
肌の美しさを維持するために、皮膚常在菌という観点から具体的に何をすれば良いのでしょうか?
乾燥肌の正解スキンケア
乾燥肌の方は、弱酸性環境の維持と菌の多様性を育てることが大事だったよね
弱酸性のスキンケアを使用する
アルカリ性の洗顔は、肌のpHを一時的にアルカリ性に傾けてしまいます。
健康的な肌ならば、数十分~三時間程度で元に戻りますが*、所要時間は皮脂量に依存するとされ、乾燥による肌荒れが見られる肌は通常の倍近く時間がかかる人もいるのだとか。
*=アルカリ中和能(バッファー機能)と呼びます。
そうすると、アルカリ性環境下を好む悪玉菌の黄色ブドウ球菌が増加!
表皮ブドウ球菌の居場所がどんどんなくなり、更に肌荒れが悪化する…という悪循環に陥ります。
それを防ぐために、乾燥による肌荒れが見られる乾燥肌さんは、弱酸性の洗顔料を使用するのがおすすめ。
弱酸性に戻る力をスキンケアからフォローすることで、表皮ブドウ球菌が活躍しやすい環境づくりを整えることが期待できます。
📍弱酸性洗顔料の見分け方
成分表に「クエン酸、クエン酸Na」の二つがセットで配合されていたら、弱酸性と考えられます。

ラメラ構造を維持する洗顔・保湿
資生堂や日本メナードの研究から、乾燥によるバリア機能の低下がみられる肌は表皮ブドウ球菌が少なくなっていることがわかっています。
バリア機能の低下で角層状態が悪化した肌は、肌表面に住む表皮ブドウ球菌にとってみれば住処が非常に限られた状態。
おうちもなければ、ご飯になる皮脂も少ないんだね。
スキンケアではバリア機能の回復を一番の目標にし、表皮ブドウ球菌の住処をリフォームしていく意識が非常に重要となります。
また、強い摩擦は角層を物理的に剥がすことに繋がります。
赤みの強い部分、乾燥を感じやすい部分を何度も擦って洗うことは特に避けましょう。
ピーリングやゴマージュも肌状態が回復するまでは、一旦使用を中止するのがおすすめです。
汗をかいて常在菌を育てる
汗と皮脂に含まれる成分は、菌たちの大好物。
ほどよく汗をかくことは、常にエサ不足である乾燥肌に住む表皮ブドウ球菌を増やす足がかりとなり、継続することで角層水分量の上昇を期待することができます。
・運動習慣を作る
・エスカレーターより階段を選ぶ
・全力のラジオ体操を行う
・湯船に浸かる
日常生活の中で少し意識を変えるだけで、表皮ブドウ球菌の働きを私たちが直接フォローしてあげることができます。
在宅勤務で全く汗をかく習慣がない乾燥肌の私は、エアロバイクを購入し運動習慣を作ることにしています!お風呂上りに急いで保湿することがなくなりました。
ただし、かいた汗の放置は厳禁!
長時間放置した汗は、以下のような悪影響を及ぼします。
汗をかいた際は、放置せず早めにふき取るようにしましょう!
汗は良くも悪くもただのブースター。それをうまく使えるかは私たちのちょっとした理解と行動があるかどうかです。
脂性肌の正解スキンケア
脂性肌は、皮脂をコントロールして菌が増えすぎるのを抑えるのが大事みたいだよ
洗浄ケアで餌を断つ!
分泌された皮脂を取り除く一番のスキンケアは洗顔です。
巷には「洗顔は一日一回でいい」「朝はぬるま湯でいい」といった論調が見られますが、皮脂が多い人は一日二回の洗顔料を使った洗浄が基本。
更に、きめ細かい泡は摩擦を減らすだけではなく皮脂を効率よく吸着し、泡と泡の間に洗浄剤を抱え込んだまま洗浄することができるため肌への作用が穏やかであるとされています。
左の細かい泡が、どんどん油を吸い込んでいくよ!
脂性肌の人ほど、科学的に根拠のある洗顔方法をマスターすることで、効率よく健やかな美肌を目指すことができます。
しっかり泡立てる、擦らない、Tゾーンや顎先など皮脂が多い場所から洗うのがセオリー!ぜひ今日から習慣にしてね。
皮脂を抑制する成分を取り入れる
スキンケア成分の中には、皮脂腺に働きかけて皮脂分泌を抑制する効果のあるものが多くあります。
国からその効果を認められているのがライスパワーエキスNo.6!
皮脂腺そのものにアプローチし、皮脂を枯渇させるのではなく適正量に戻す働きがあります。
この他、代表的な皮脂抑制効果が知られている成分は以下の通り
- アゼライン酸⇒皮脂抑制×角化抑制 毛穴詰まりやニキビが気になる人に
- ビタミンC⇒皮脂抑制×抗酸化 皮脂の酸化によるトラブルを防ぐ。がっつりケアしたい人はAPPS(パルミチン酸アルコルビルリン酸3Na)がおすすめ
- レチノール⇒皮脂抑制×角化抑制×エイジングケア 肌のキメを細かくすることで菌の住処を整える効果が期待できる 最初は低濃度から始めるのがポイント!
- ナイアシンアミド⇒皮脂抑制×バリア セラミド生成効果があり、べたつくのにつっぱり感があるインナードライ肌におすすめ
- ローヤルゼリー酸(10-ヒドロキシデカン酸)⇒皮脂抑制×抗菌 脂性肌向けコスメによく配合されている隠れた名成分
- ビタミンB6(ピリドキシン塩酸Na)⇒皮脂腺に働きかける酵素を抑制。ビタミンCとの相乗効果が期待できる
個人的には、ビタミンCを継続して取り入れた脂性肌の方は変化を実感される方が多いように感じます。
皮脂抑制に加えて、どんな効果を期待するかで選ぶようにすると良いでしょう。
低GI値で中から皮脂コントロール
ここまで、皮脂に対する外側からのアプローチについてご紹介してきましたが、皮脂分泌量と切っても切れない関係にあるのが生活習慣です。
皮脂腺を刺激し分泌を増やすと報告がある生活習慣は以下の通り。
近頃は血糖値を急激に上昇させる高GI食品との関与が数多く報告されています。
上昇した血糖値を抑えるために分泌されるインスリンは、皮脂腺を刺激する男性ホルモンとIGF-1の生成を促してしまうのだとか。
・野菜から食べる
・よく噛んでゆっくり食べる
・糖質の多い飲み物や食べ物は控える
このような食べ方の工夫が有効だと考えられています。
上級者向けのインナーケアではありますが、半年から1年間を目標に継続して体の中から美肌を目指していきましょう!
地味な上にキツいインナーケアですが、継続することで肌質が確実に変わると実感しています。続けられることを続けられる範囲でコツコツ積み重ねていくことが大事!
あなたの肌は「砂漠」か「ジャングル」か?
皮膚常在菌は、私たちの肌を守ってくれる大切なパートナーです。
でも「増やせばいい」「減らせばいい」という単純な話ではない、ということが最新の研究から見えてきました。
乾燥しやすい肌なら―――弱酸性環境を維持して菌の多様性を育てること
皮脂が多い肌なら―――皮脂をコントロールして菌の過剰繁殖を防ぐこと
菌の多様性が無さすぎるのか、菌の数が多すぎるのかは肌質によって変わるよ
それぞれの肌質に合わせたアプローチが、美しく健康な肌への近道。
自分の肌質を見極め、最新の研究に基づいた正しいスキンケアを毎日積み重ねていくことが、理想の肌を育てていきます。
今日から、あなたの肌質にあった皮膚常在菌マネジメントスキンケアを始めていきましょう!
焦らず、諦めずにね!
書いたのはこんな人…
スキンケアブランド元美容部員。
関西と関東の店頭で約2万人をカウンセリング。
フリーのスキンケアカウンセラーとしてtwitterを中心に活動中です。
参考文献:
資生堂:敏感肌では皮膚常在菌叢の多様性が低いことを発見(2020年8月プレスリリース配信)
日本メナード化粧品:日本メナード化粧品とファスマック、肌あれと皮膚常在菌の関係を解析~肌の pH を 5.5 以下にすることで皮膚常在菌のバランスが整い、肌あれを防ぐ~(PDF 2023年5月プレスリリース配信)
KOSE:“菌数が多いほど肌が粗い”などの 皮膚常在菌の数と肌状態の関係性を確認 ~2023年度 日本化粧品技術者会 最優秀論文賞を獲得~(2024年6月プレスリリース配信)
花王:「泡立て洗顔」が大切な「本当の」理由~「泡が皮脂を吸い取る」?その意味は?~ (2019年12月「イノベーションのDNA」より)